アイヌの位置 |
さて、参考文献(2)はJCV人類学の最新の(2003)知見に触れることが出来るものであろう。引用した系統樹を参照願う。ここでは、アイヌの1人が東北シベリア先住民やイヌイットから検出されるJCV型(Eu-a/Arc)を有していること、3人が「コーカソイド」と祖を同じくする型を保有していることなどから、次のような考察がなされている。 但し、「データ規模が小さいため、アイヌの起源に関して早急に結論を導くと、誤りを犯す可能性がある。」と注意を促しながらも「いかにJCVゲノム型解析がアイヌの起源の解明に役立つかを示したかったから」として敢えて提示した、としている。
確かにデータ規模は小さい。30人を調べたがJCVが検出されたのが13人。そのうち10人についてはJCV塩基の全長が得られ、加えて3人についてはIG領域だけ得られた。この10人のうちの1人がEu-a/Arcに属するウイルスを保有していることが判ったものだ。 引用した系統図は全長配列のものであり、アイヌの10人が記載されている。内訳は、Eu-a/Arcが1,Eu-cが3,MXが1,MY-xが2,MY-bが3、である。 東北シベリア先住民やイヌイットに見られる Eu-a/Arc がアイヌの一体から見つかった、というのは大きな発見であり、東シベリアとの何らかのつながりが示されるものであろう、それはそれで良い。 しかし「ヨーロッパ人に近縁の東北シベリア先住民の祖先集団が現代アイヌの中核となったこと」まで言えるのか。あまりに大胆が過ぎないだろうか。1体だけである、感染のメカニズムがハッキリしていない(親子でも感染しなかったり、他の型に感染する、他人にも感染するのか、など)を考えればここまで言えないと思う。 荒っぽく云ってしまえば、ヒトがアフリカを出て、欧州へ進んだ群とアジアへ転じた群があった、アジアへ転じたヒトはヒマラヤの北と南の2ルートで東進し、北ルートの人たちも日本へ来たり、シベリア、アラスカ経由米大陸へ入った、という概観は既に大いに述べられていることだ。これに照らせばアイヌが東北シベリア先住民やイヌイットと共通のJCVを持っていたことはむしろ必然であろう。
むしろ、気になるのは、太平洋諸島民の持つ2E,8a, 8bなどの型(特に2E)がアイヌの持つMX(2人),MY-x(1人)と系統樹上で近縁に見えることだ。
参考文献(2)では、アイヌから検出されたJCVの型(MY型など)は「南方アジアでは決して見つからないゲノム型である」としてアイヌの南方起源を否定している。それはそれで間違いではないが、 JCウイルスとしての進化系統をおさらいしてみると、大本の祖から三つの系統A,B,Cに別れ、
日進月歩する研究であるから、データが少ないながらも何らかの見解、見通しを提起して頂くのは歓迎だし、データが少ないから危険はある、との認識を告知しているのは好感が持てる。が、しかし、もし、万一、何らかの先入観、恣意性が働いていたら大変に困る。 |
続く(予定) |