鳥が執行する葬儀
きさりもち、の意味は?

orig: 2004/05/24
rev1: 2004/05/26

天若彦(あまのわかひこ)の葬儀は鳥が執行している。鳥葬の名残を見るべきか;鳥名と担当の仕事の間に語呂合わせが無いか、伝承のずれの観察、など興味ある比較となろう。
先代旧事本紀・巻第三日本書紀← 一云古事記
天稚彦天稚彦 天若日子
疾風飄が伝達疾風が伝達  
河鴈(かはかり)持傾頭(きさりもち)河鴈(かはかり)持傾頭者(きさりもち)&持掃者(ははきもち)鶏(かけ)持傾頭者(きさりもち)河鴈(かはかり)岐佐理持(きさりもち)
鷺(さぎ)持掃者(ははきもち)  河鴈(かはかり)持掃者(ははきもち)鷺(さぎ)持掃者(ははきもち)
翠鳥(そに)御食人(みけびと)    翠鳥(そに)御食人(みけびと)
雀(すずめ)碓舂女(つきめ)雀(すずめ)舂女(つきめ)雀(すずめ)舂女(つきめ)雀(すずめ)碓女(うすめ)
雉(きざし)哭女(なきめ)    雉(きざし)哭女(なきめ)
鶏(かけ)尸者(ものまさ)  (そび)尸者(ものまさ)  
鷦鷯(さざき)哭者(なきめ)  鷦鷯(さざき)哭者(なきめ)  
鵄(とび)造綿者(わたつくり)  鵄(とび)造綿者(わたつくり)  
烏(からす)宍人(ししびと)  烏(からす)宍人(ししびと)  
八日八夜八日八夜凡以衆鳥任事日八日夜八夜
●持傾頭者(きさりもち)考:

(1)アイヌ語 kisar us chikap  耳・生えている・鳥=かわせみ科のエゾヤマセミ(出典:動物編)。かわせみ なら 翠鳥(そに)だが。kisar us chikap の各語は kisar・を持つ・鳥。 kisar=耳、(茅・葦原 の意にもなる。)
(2)あらはばき、で考えたこと:
maratto(酒宴;送り儀礼で家の中に運び込まれたクマなどの頭;その「耳と耳の間」に魂が座っていると考えられており、賓客として扱われる:出典・中川裕辞典)「耳と耳の間」は kisar utur と造ることができる。これを kisar us kur とでも訛る、通じさせる、語呂合わせする、ならば、キサリ・を持つ・神(人・者)とはなるのだが、どうか。これは「頭」という文字に惹かれた解。

●鷦鷯(さざき)考:

これは、みそさざい、のことである。アイヌ語は chakchak kamuy (擬音語)、tosirpokun kamuy 川岸の下の穴・の下・に入る・神、これを tusir pok un kamuy と訛れば、それは「墓の下に入る神」となる。和語「みささぎ」との関連にも注目。高知方言に「はかとり」、鳥取方言で「みそくいどり」

●雉(きざし)考:

これを、哭女(なきめ)とする一方、天若日子に国譲りを説得しにくる雉とがある。雉のことをアイヌ語では hum(i)ruy という。原義は「声・激しい」。天若日子は「この鳥は、その鳴く声 甚だ悪し。」として射殺してしまう。哭女、鳴女、と共に激しく鳴くという特徴を見てよいだろう。

●ニギハヤヒが亡くなったときにも「速飄神」が伝達し、鳥は出てこないが、「日七夜七」「遊楽哀泣」した、と先代旧事本紀・巻5にある。


注記:

「そび」は「そに」の転で、「翠鳥」に同じ、つまり、カワセミ、ということになる。

● 「鴈」:学研『漢和大字典』によると「水鳥の名。かり。(これを飼い慣らしたものが、がちょう)・・・古訓:タカ、ハヤブサ」


みぞくひ・みそさざい考
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