「正哉吾勝勝速日命」の読み 欠史8代に当てはまる名前の秘密 |
orig: 2000/03/01
rev: 2000/03/12
ニニギのミコトの父親である「正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊」は普通「マサ・カ・ア・カツ・カチ・ハヤ・ヒ・アメノ・オシ・ホノ・ミコト」と読まれています。このミコトは天照大神とスサノヲのミコトが一定の誓約の上で生んだといわれる8王子の長男です。 「勝」という字に引かれてか、スサノヲが天照大神に勝った、というモチーフで話が書かれています。確かに誓約(ウケヒ)を仕掛けたのがスサノヲで、そのとおりになったのだから「勝った」と言えなくもないのですが、しからば天照大神が負けたか、というとそういう場合でもなさそうです。 まず最初の4文字に就いて調べてみます。訓読みの頭の音節だけを拾ってみますと、上記で太字で示しましたが、「マカアカ」となります。 最初の文字「正」を「マ」と読むのは良いとしましょう。 次の「哉」ですが、神代紀のイザナギとイザナミが邂逅したときの台詞に「うれしい哉」とか「あなにゑ哉」というのがあります。この「哉」字に関して第2例の方では「阿那而恵夜」と原注がありますので「哉」は「夜」即ち「ヤ」と読むことが判ります。従って、ここでも「ヤ」を採ります。(ここまでで、即ち、「マヤアカ」) 次いで「吾」ですが「ア」と読んだのでは古来二重母音を嫌った日本語として違和感があります。他例もあるので「ワ」と読みます。そうすると、「マヤワカ」となります。 「正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊」の「勝勝」という同字の繰り返しに就いて調べてみます。古事記の神代記でイザナギ・イザナミがオノコロ島を作る段に「許々袁々呂々」という表現があります。これは今の繰り返し記号の使い方で読むと、ココヲヲロロ、になってしまいますが、これで、コヲロコヲロ、と読むのが正しいようです。出雲風土記の国引きの条には「国々来々」とあり、これは「国国、来い来い」ではなく「国来い、国来い」の筈です。同じ段に「毛々曾々呂々」もあり、「モモソソロロ」ではなく「モソロ・モソロ」です。 そうすると、もし「カカチチ」という語を表記したければ「勝々」とする手がある筈です。ここまで最初から通して読むと「マヤワカ・カチチ」となります。 「速日」は、どうも「ハヤヒ」が良さそうですが、一貫性をもって「ハヒ」と読むことも考慮しておきます。 何故こんなことをしてるかと言いますと、「速日考」で触れたように、いわゆる欠史8代に似たような名前が続々出てくるからです。但し、乳速日は旧事本紀天神本紀から取りました。:
この中から5例に「マワカ」「(ハ)ヤワカ」「(ハ)ヤ(ヤ)マカ」など似た音が観察されます。また「チチ」とか「トト」も5、6例見られます。その「チチ」は、「正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊」の妃(つまりニニギの母親)「栲幡千千姫」の名前にも出てくる音です。「ハヤ」も直接的に5例(意味を考えれば7例か)挙げられます。 つまり(主に)欠史8代の登場人物の名前が「マヤワカカチチハヤヒ」と大いに共通点があることが注目されます。 上で保留していた、「速日」を「ハヒ」と読む可能性に関して触れます。表には入れてませんが「意富夜麻登玖迩阿禮比賣」の別名に「蝿イロネ」があり、妹に「蝿イロド」があります。もっとも、蝿は ハヘ であり ハヒ ではないのですが。同じく表外ですが、磯城の県主に「葉江」「波延」もあり、読みは ハエ (haye) ですので関連がありそうです。大体、葉江の子孫が蝿イロド・イロネ姉妹になります。従って、hahe と haye は同語と考えて良さそうです。但し、これらが hahi (hayahi)とも同語だったか、はまだ判りません。訛りでしょう、といってしまうのは簡単でしょうが。。。 さて、上の分析が正しいとどういう事になるのでしょうか。正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊、その妃、栲幡千千姫、の世代と所謂欠史8代の世代が接近、接触しているかもしれない、ということになりそうです。 |