高句麗地名から高句麗語を抽出
方法の追試 2:巻37をどう読むか
orig: 2004/06/14
latest:2004/07/05

巻37では、高句麗地名が典型的には「○○(××ともいう)」(原文:○○(一云××))とリスト風に掲げられている。この記述では○○が高句麗地名であるとは言えそうなものの、「一云××」が高句麗側の別称なのか、新羅地名なのか、を検証してみた。

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「一云××」の言語不明、または新旧地名は言語的に対応していないのかも
「国原城」:
巻35:「中原京はもと高句麗の国原城である。」
巻37:「国原城(未乙省ともいい、託長城ともいう)」
両巻を照応させて「国原城」は高句麗地名である、とひとまず推定できる。カッコ内の別名が高句麗語なのか新羅語なのか(はたまた、いずれでもないのか)判定しかねる。なお、巻37では「中原京」という新羅の呼称には触れられていない。

「一云××」は新羅地名?
「買忽郡」:
巻35:「水城郡はもと高句麗の買忽郡」
巻37:「買忽(水城ともいう)」
「買忽」が高句麗地名で、カッコ内の(水城)が新羅版である、と言えそうだ。

「一云××」は高句麗地名
「買召忽県」:
巻35:「邵城城県はもと高句麗の買召忽県」
巻37:「買召忽県(彌鄒忽ともいう)」
ここの「買召忽県」は高句麗地名だが、カッコ内は新羅地名ではなさそうだ。理由:「忽」という字が新羅プロパーと思われる地名には使われていない、新羅版では「城」に変更されている。「買召」と「彌鄒」は同音・類音と捉えうる。つまりカッコ内は新羅地名ではなく、高句麗地名の別名、別表記のようだ。

このように「一云××」の「××」には上に示したように三種類ありそうだ。即ち、言語不明、新羅地名、高句麗地名、と三通りの場合がありそうだ。しかし数量的には、最初の二種類は圧倒的に少数で、一云の地名の殆どは高句麗地名の別称、別表記と考えられる。

この検証に基づいて巻37の地名と別名(一云)の関係から高句麗語を抽出、拾い出してきた先達の作業を私も追いかけてみる。

巻37によく使われる字
主記述一云備考
「買」が「河、水」の意味で近似音は「メ」
買忽水城買=水
南河県南買買=河
述河郡省知買買=河
内乙買買=米、これは音が「メ」で近似
買召忽県彌鄒忽買=弥、これも音が「メ、ミ」で近似
横川県於斯買買=川。「横」=オシが抽出できるのではないか。
深川県伏斯買買=川。
買省郡馬忽ここからは「買」=「馬」と考えているようだ。「メ、マ」の近似音、だろう。
水入県買伊県買=水
「達」は「山」〜「高い」
釜山県松村活達達=山。
功木達熊閃山達=山
烏斯含達兎山達=山(巻35)
北漢山郡平壌これは語彙としては無関係なのだろう
高木根県達乙斬達=高い
「忽」は「城」(「村」用語、参照
買忽水城忽=城
童子忽県仇斯波衣忽はクアルに近い音とされているが、ここによれば、ハイに近いようだ。疑問提起。
大谷郡多知忽
冬音忽鼓塩城忽=城
内米忽池城、長池忽=城
津臨城烏阿忽忽=城
水谷城県買旦忽忽=城、谷=旦、水=買
漢城郡漢忽、息城、乃忽忽=城
卓踏租波衣ハイが城、か。上の仇斯波衣も参照。
母城郡也次忽忽=城。ここから母=也次、を抽出している#56。
浅城郡比列忽忽=城
城郡加阿忽忽=城
十谷県徳頓忽忽=県か?(谷=頓 トン)。徳=十=トヲ
五谷県于次呑忽忽=県か?(谷=呑 ドン)。于次=五=イツ
「波衣」(ハイ)のデータ
斉次巴衣県 巻35に「23 孔巖縣 本高句麗 済次巴衣縣」とある。「巴衣=巌」
童子忽県仇斯波衣波衣=忽
平准押県別史波衣波衣=押
卓踏租波衣波衣=城。ここから租 cu=フクロウの類#36。和語「ツク」参照。
加火押この「押」も波衣か?記載なし。
去斯波衣仇史はしばしば「波兮」と対応している。「ハケ、ハゲ」という崖地形のことだった、と思う。例:文県(一云 斤尸波兮)。「衣」は「イ」に近い音と思うよりも「きぬ」との類似で「k」音を見るのが良いのか。つまり「衣」は高句麗語でも「k」音で始まっていたか、という推察の端緒となりうる。
猪蘭烏生波衣ここでも「波衣」と「」が対応しているようだ。猪守とも云う、とあるのもメモしておきたい。ここから猪=烏(u)を抽出している#59。
平珍平珍波衣ここも「波衣」と「」が対応している。
奈生於これの対応関係は不明。
上記のように「波衣」は「城」「押(意味は城とか村?)」「波兮(地形名?)」などと対応しているようだ。読みは「ハイ」に近い音のみならず「ハケ」辺りも注意しておく必要ありそうだ。
「波衣」の相関図:

    押  忽
    | /
 巌−−波衣 −−−峯
  \ /| \
   嵒 嶺−−−−登
      / \  /
     平   波兮


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