九十九里・考
南房総の地名へ

orig: 2002/05/03


房総半島の太平洋岸にある長い砂浜、銚子から大原あたりの60kmほどを九十九里(くじゅうくり)浜という。その中央部のやや南にに九十九里町がある。60kmほどでは、約15里にしかならない。まぁ、長い海浜だが、百里には至らない、というので99里、と遠慮しておいたのであろうか?

既に、こういう説があるかどうかは知らないが・・・

九十九里町の南隣には大網白里町がある。99歳のことを白寿という。「百」から、頭部の「一」を引いて「九十九」と関連づけているのだ。つまり、「白里」を「九十九里」とモジッタものなのではなかろうか。(逆かもしれない、という考えもあろうが、先に九十九里とつけた、というよりは、先に白里と呼ばれていた、と考える方が、考えやすい。)

白里、は今、しらさと、と呼ばれる。これの元は「シラリ」ではなかったろうか? アイヌ語の sirar は「岩、磯、平磯、海岸の水中にあって汐が引くと現れる岩盤、荒磯、海岸の水底に群在する岩礁」(『アイヌ語地名小辞典』)とあり、北海道にはsirar のつく、アイヌ語地名が多く見られる。

例えば、sirar-etu (石崎村)、o-sirar-nay(尾白内)、sirar-ika(シラリカ川)、sirar-ka (sirar-ika-p?)(白糠)、などである。(参考:『北海道の地名』)

大網白里の南には白子町がある。鮭の白子(up)と関連するのか、とも思ってきたが、白里 sirar-ika((満潮になると汐が)岩を・越す), sirar-ka(岩・の上), sirar-u-kao(岩・互いに・積み上がる) との関連を見た方が良いのかも知れない。

大網白里の北には「真亀川」、南には「南白亀川」が流れている。kama というと「平岩、扁盤、(ナヨロ方言では)岩」、また、動詞で「上を越す」意味になる。これらの河口に岩盤があるのか、流域に岩盤を飛び石伝いに川を渡れる場所でもあるのか。白亀がsirar kama から音写され、北の川は、白亀からの類推で真亀とでもなづけたのだろうか。こちらも、si-kama 大きい・平岩、が源だろうか。各地の「鎌」「釜」が付く地名も一度 kama で考えてみたら良いと思う。

九十九里町の北の方に栗山川がある、その北岸には「白磯」という地名がある。純正日本語になるものか、sirar 岩、と iso 「水中の波かぶり岩、海または川の中にあってしければ隠れ、なぎれば現れる平たい岩、狩または漁のえもの」の合成語だろうか。

更に北上すると八日市場市に新川が流れている。その北に「足川」がある。asir-nay とでも造ればこれは「新しい・川」の意味になる。川の流路は恐らく多くの変遷があったのだろう。「足川」という地名はある時期にそこを新しい・川が流れたことによるのだろうか。このあたりには足洗、目名、目那などアイヌ語解をしてみたくなる地名が散見される。足洗は、名洗とともに rur=海、を考えたいし、メナに関しては、北海道日高幌別川などの支流のメナ川(意味は未詳、mem-nay 湧泉池・の川か)という例もある。

ぐっと南下して、房総半島の南端には白浜がある。紀伊の白浜と同じであろう。紀伊には白浜の隣に白良浜がある。そうしてみると、白い浜、白い良い浜、というのは sirar への宛字なのではないか、と疑われる。

検証は不十分だが、ここらから細密な研究が始まると良いと思う。

九十九・地名リスト


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