アイヌ語地名・序
アイヌ語地名が東北以南にもあるのか

ORIG: 96/11
REV : 97/08/09 FORMAT & COLOR

最近、アイヌが先住民だとの認識をやっと国会でもしたようですが、その認識とて、地域的には北海道、時代としても江戸・明治時代からの先住民、と云った程度ではないでしょうか。つまり、「アイヌは日本列島の太古からの先住民の後裔」という認識ではないでしょう。

巻頭言で述べたように、我々、いわゆる日本人、が祖先だと思っているニニギのミコト一族は、高天原から日本列島に移住してきた人達で、その時、列島にはコノハナサクヤ姫とかその親である大山祇神が属する先住民族が既に居住していたのです。

これは、日本書紀、古事記にはっきりと書かれている伝承です。

その先住民族の一部はニニギ一族と婚姻関係を通じて融合して行ったし、一部は殺されたり、或いは、ニニギ一族の領土拡大に伴い、東北・西南に追いやられた、或いは、東北・西南だけに残存した、ように窺えます。

そうすると、ニニギ一族が席巻した地域でも、先住民族が命名した地名が残存している可能性があります。ヨーロッパの研究では、例えば有名なライン川の名前は紀元前4世紀にまで遡れそうである、とされ、印欧語族が入る以前の古欧語層の研究に於いて、地名、特に河川名は重要であるとの指摘があります。(H. Krahe 下宮忠雄訳「言語と先史時代」紀伊国屋書店)

すぐに思い当たる例として、殆ど英語の国になってしまった米国にも、ミシシッピ川、ミズリー川、コネチカット、マサチューセッツなど、いわゆるアメリカ先住民の地名が残っています。

日本語の古層を色濃く残しているのがアイヌ語ではないか、との想定のもとに日本全国的にアイヌ語で解けそうな地名を拾っております。それに関して、先達の見解を引用して、地名序、とします。


ORIG:96/12/03, rev: 98/02/19 誤植訂正

このHPでは生兵法を駆使して、アイヌ語地名候補として、いろんな事を云って居ります。お読み下さっている方の中には、アイヌ語地名が北海道や東北北部にあるのは、判るけど、それより南・西の地名をアイヌ語起源だとするのには抵抗が大きい方も居られましょう。

その抵抗は、恐らく今までの研究者の方々の見解をもベースにしているのだろうか、とも思われます。最近、借りてきた山田秀三さんの著作集を読んで居りました。私は今まで、この方は、否定的な見解の持ち主かと思っていたのですが、実は、次のように書いて居られるのですね。山田秀三著作集(草風館発行:#1 P93-96)からの、抄出ですが『 』に入れます。

『東北に続く南、西の地域にアイヌ地名があるか無いかは全く雲の中で分からない。しかし気になることなので、若干雑話を書いてみることにした。

実は北海道アイヌ地名に似た地名は方々にある。ただ、今までのところ、その適否を判断、立証する資料、方法がないのである。 立証する事が出来ないから無い、と云えば手堅いと誉められるかも知れないが、無いと言い切る自信の方もない。

最近、福岡県西端糸島郡中南部を歩いたときのことを書いてみよう。

  • 支登(シト)
    situ 山の走り根 平地にそれが突き出ている辺の地名、または、sut 山裾 (原文の sh は s に変更した/抄出者)

  • 浦志(ウラシ)
    道内諸処にウラシナイがある。笹川、の意味

  • 波呂(ハロ)
    隣に瀬戸もあり古くは海辺だったくさい。北見のサロマ湖畔に芭露(パロ)がある。口 (mouth)の意味で河口をも意味する。

  • 伊都(イト)
    こうなれば、伊都だって、etu=鼻、とも近い。(「岬」の意味もある/抄出者注)

魏志倭人伝の伊都国はさらに昔はアイヌ語族の居地だったと、小説を書いたら真面目な歴史家に怒られるだろうか。

・・・西の方にもアイヌ語的な地名の痕跡が残っているのかも知れない。あの手堅い金田一先生だって夢はあったのだ。「北奥羽地名考」の最後の処を抄録してみよう。

「白河の関を南に越すに至ってナイ・ベツもみえなくなってしまう。たといアイヌ地名が、その昔はあったにしても、失われてしまったのである。それでもなお、奇跡的に、ある地名は取り残されているというようなことも、全く無いとは言えない。そういうのは、今後の努力の、砂金を砂の中から拾う克明さによってのみ検出されていくだろう。今は、そこに到る目的を遠く置いて、着手の第一歩を踏み出すだけにとどめて置きたい。」

長い引用になりましたが、要するに「白河の関以北」には、確実にアイヌ語地名がある、それより西・南は後の人考えてよ、と書いてあるのです。

これら先学の立場を、「白河以南にはアイヌ語地名は無いとしている」、と理解してしまうと、それは誤解であり、思考停止でもあり、また、先学の希いにも反することではないでしょうか。

地名もさることながら、日本書紀、古事記、風土記などにも古い地名や神名、人名が残されていないのか、に強い興味を持ちました。

とても、「砂の中から砂金を拾い出す克明さ」は持ち合わせませんが、少しでも多くの同好者を「発掘」\(^O^)/したい、と不明を顧みず書き続けております。

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