出雲・国引き物語
にある縄文語(候補)

orig: 2001/05/05
出雲風土記・国引き伝承
(郡名を)意宇(おう)と名づけた理由は、国引きをした八束水臣津野命が「八雲立つ出雲の国は狭布の稚国であるなぁ。初国は小さく作られたから、作り縫おう」と言って国引きを始める。四つの国を引いてきて、やれやれ疲れた「おゑ」と言ったから(「意宇」と呼ぶことになった)。

四つの国を引いて来るのに「童女の胸鋤取って、大魚の鰓を衝き別けて、はたすすき穂を振り分けて、三身の綱をうちかけて、霜黒葛(しもつづら)クルヤクルヤに、河船のモソロモソロに、国来国来(くにこくにこ)と引き縫える国は・・・」という節を4回繰り返して4回の国引きをしてくる。

出雲風土記・国引き伝承
関連アイヌ語と解説備考など
「童女の胸」若い pewre 女 mat (の)胸 penramu(hu) のように p, 半母音/半音節的な w/n に続いた r、そして m音で語調が良い。ローマ字を発音してみて頂きたい。

和訳された上記では「稚国」と「童女」となっているが、あるいはオリジナルでは「若い」を意味する語が「国」と「女」の両方に前置されていたかも知れない。そうすると語調が良くなり記憶、連想、を助け口頭での伝承に都合が良い。

「鋤取って、大魚の鰓」鋤を意味する語に kukka があり、きだ(鰓、えら)の kuruki と共に下段に引き続く k, r 音の連発の始まりである。
「はたすすき穂を振り分けて」すすき sup 穂 pus 振る suye 別ける usaraya と語調が面白い。

和文解釈の、すすきの「穂振り」が屠る(ほふる)につながって、「すすきの穂」が「振る」の枕詞だ、というのも面白いが、sup pus suye, usaraya の語調も中々ソノラスである。

「三身の綱」三本の糸を撚って拵えた綱で re ka eka tus (3・糸・撚る・綱)あたりの語群からなる。

「3」と「糸」は播磨風土記にあるオホナムチと天日矛の争い、や三輪伝説にも共通するキーワードだ。

「うちかける」「投げつける」ほどの意味と理解すると sir-ekatta が対応する。 上記の「三身」の re ka との語呂合わせにも注目する。

播磨風土記のオホナムチと天日矛の説話にも條の黒葛を投げる、というモチーフがある。

「霜黒葛(しもつづら)クルヤクルヤ」霜=kuruppe 黒=kunne (←kur+ne) 葛=蔓として=punkar そして kuruya kuruya と、この一節は "kur" とか "kar" から成り立っている。
「河船のモソロモソロ」河船とは「進みの遅い意でかかる枕詞」で「モソロモソロ」は「そろりそろり」(岩波古典体系風土記P100頭注15)とある。そうかも知れない。

モソロモソロに moshir moshir (国々、島々)を感じてしまうがどうだろう。「モソロモソロに国々来々(国来い、国来い)」という繋がりであるから、moshir と 国の連想が面白いのではないだろうか。

「引き縫える国は」和訳されて消えてしまったが、引くは nini、 縫うは ninu だから、国を引いて来て縫いあわせる、というモチーフは、縄文語オリジナルなら、同一の音 nin_ から出ているように見受けられる。
以上、この国引き神話は見事な和訳になっているが、アイヌ語を援用して縄文語で復元してみると、和訳バージョン以上に語調の良い、ソノラスな、文が見えて来るように思われる。
そればかりか、3・糸・玉・(霜)黒葛・投げる、あたりのモチーフが、出雲国引き、オホナムチ対天日矛、三輪伝説、ミカタという地名や人名(櫛御方)などを統一的に理解することを勧めているように見えてくる。

語彙集
童女pewre mat
penram(hu)
胸板ram kotor
kukka, tonka
きだ(鰓)kuruki:(鱗だと ram-ram)
(衝き)別ける(okke) cimi/usaraya
すすきsup
pus
振るsuye
三身(三つ撚り)re ka eka (3・糸・撚る)、noye(綯う)
tus(i)
kuruppe
kurne* →kunne
蔓、として、punkar
引くnini
縫うninu
nini引きずる:複数は ninpa (田村辞書)
ninpa引く、引きずる:綱をつけてたくさんの物を引っ張る(萱野辞書)
ninu縫う
nin-ninu縫う、針を使って縫う(多分、上の ninu の繰り返し)

国引き物語と越の関係
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